私がライトノベル(主に少女小説)にガッツリ戻るキッカケの一つがこの小説。タイトルの通り、アラサーの主人公が突然神様に召喚されて異世界へ渡る話。今回は、この小説の感想をつらつらと綴りたいと思います。ネタバレが含まれるので、まだお読みでない方はご注意ください!
ちなみにコミカライズもされていますが、原作からあまり改変されておらずそのまま作品になっているので、どちらから読んでも違和感ありません。
感想
主人公は33歳アラサーOLのツキナ。私が「世界に救世主として喚ばれましたが、アラサーには無理なので、ひっそりブックカフェ始めました。」に惹かれたのは、異世界に行くまでの過程に超絶共感したから。
たぶん、ガッツリ働く30オーバーの女子には刺さるKWがたくさんあったんじゃないかなと思う。
神様に異世界転生の話をされても冷静に話を聞いて、ちょっと冷めてるような、現実的なツキナ。ツキナのセリフはそのまんま私にささる。
仕事も今の世界も好きというわけではない。だけど、それなりの生活環境があって特別不満を感じているわけではない。あえていまチャレンジをする必要がない。
そう。そうなの。10代~20代は新しいことに手をだしてみたり、まずはやってみるってことができた。でも30代になるにつれて、それ以外のことも考えるようになる。幅が広がるしリスクも考える。わざわざ面倒くさいこと、手間がかかることしたくない。
ツキナの存在は、現代のアラサー女子のソレだなぁと思う。異世界なんてそれこそ10代がワクワクするような内容だし、いろいろなストーリーが既に存在していて言葉が悪いけれど出尽くした感があると思う。
でも「世界に救世主として喚ばれましたが、アラサーには無理なので、ひっそりブックカフェ始めました。」は、そのよくある異世界転移のストーリーに、リアルな世界観や価値観が入っているのだ。作られた世界(物語)に現実的な世界観があって、なんだか私の隣で起こっている出来事のように感じられる。それがこの小説に惹かれたところ。
願いを全部叶えて異世界にわたる
ツキナは年相応のそれなりにずる賢いところもある。ちゃっかり願い事すべてを神様に叶えてもらい、チート的な能力を持つ。
例えば、住む場所は山奥、そして自分が大好きな沢山の本を設置したブックカフェ。お金をはじめあらゆるものを検索して手に入れることができるまさにAmazonみたいなことができるネックレス。魔法についての事前知識、そして読み書きできる能力。神様を呼び出せる能力3回まで。
うん。このくらいするよね。たぶん私もたぶん言ってしまうと思う。異世界転移なんて格好いい!!って思うかもしれないけれど、現実問題、見ず知らずの時代も世界もまったく違うところに、常識もわからずにぽつんと放り込まれたら不安だし怖い。
でも、もしツキナのように自分の城があって、生活にこまらない能力があったらなら、そこだけで自分の世界が完結する。自分の場所があるってそれこそ一番安心だよね。
のんびりとした時間が流れるストーリー
ブックカフェとはいっても山奥にあるのであまり人が通る場所ではない。だからお客さんなんてそうそう来ない。たまたま遠乗りをしていたイルがたどり着き、お客様第一号となる。
よくあるソローライフという名の小説は、だいたいタイトルに反して目まぐるしく物語が展開する。でもこの世界は、最初から最後まで時間がのんびりすぎていくような流れ。読みながら、同じような時の流れをかんじるからゆっくりした気分になれる。
イルも無類の本好きで、まさにツキナと相性ばっちりだよね!とウキウキ。ツキナもイルもそんなにワイワイするタイプではなく落ち着いているので、大人のおつきあいという雰囲気。
絶版になった本、好きなシリーズの最新刊、イルの好きなものがたくさんあって目が輝いているのが目に浮かぶ。お客さんの様子を見て、ほっこりしたり、喜んだり。
何回も顔を合わせるようになって、お互いの好きな本の話をするようになってだんだんと惹かれている様子が。二人で過ごす時間が当たり前のようになっているところに、うらやましいなぁという気持ちになった。
徐々に距離が縮まる2人が甘酸っぱい
ツキナがいる国には先に来ていた「救世主」がいる。まだ年若い女の子で、遅くなってからの一人娘だったからかとても我儘な子。救世主は国で保護されるが、少女はそこで第二王子を落とし、好き放題我儘放題暮らしているという。
救世主の我儘で城の空気も悪くなっていて、さらに魔法の勉強もしないので城では救世主に対する不満はどんどん膨らんでいく。
騎士団の団長を務めるイルは、そういった王宮で務める人間のいざこざ、団員のストレスなどに板挟みになっていて、大きなストレスを感じていたときに、ツキナのブックカフェを見つけた。大好きな本を好きなだけ読むことができ、イルはそれが息抜きでありストレス発散になっている。
ツキナとイルが仲良くなり距離が近づいていく。ツキナは救世主にはなれないけれど、一人の友人としてイルを助けてあげたいと思うようになる。イルにだす紅茶には回復魔法をかけているけれど、それでも疲れ切っているイルをみて、なにかできないかなと考える。
救世主は嫌。でも心配。ツキナはチート能力をいっぱいつけるくらいズルいところはあるけど、優しい部分もある。自分で自覚があるから、そんな考えに罪悪感もある。
たぶん、このころにはツキナはイルのことを好きになっていたんだろうなぁと甘酸っぱい気持ちになる。
イルだって、「君の料理は俺の好みに合ってすごく美味しいと思う」なんて言っていて、これって自分の好意を伝えているようなものだよね。
イルがツキナへ感謝の気持ちを伝えようと贈り物を考える姿にもキュンとなる。一番喜ぶのは本だということを分かった上で、別の何かを贈りたいと考えて探すのですが、もうイル、ツキナに惚れているよね。自分が贈ったものを身に着けてほしかったんだよね。
ツキナもイルも似ていて、なんとなく好意のようなものを感じているくせに自覚がないところがまたじれったくて。こういう恋愛してみたいなぁ・・・って思うよね。
イルと神様
ある日突然神様がツキナの元に現れる。ツキナのいる国にいるもう一人の『救世主』について。役割を果たさず我儘放題の『救世主』の話を聞く。自分だって役割を果たしていないことは分かっているものの、救世主として城に滞在しているのに魔法1つすら覚えず我儘放題だという『救世主』にたいして思うことはある。
神様から『警告』を受け取ったツキナは、きっともし『救世主』の魔法が暴走したら、万が一対峙することになったら、と想定されることをいろいろ考えたのに違いない。
そんなときにイルがお店にやってくるんだけど、もうこれベタだよね。イル、ツキナへの恋愛感情が芽生えていてそこに神様いたら、なんとなく嫉妬しちゃうよね。どんな関係かとかきになっちゃうよね。
もうにやにやとまらない!ツキナにプレゼントを渡すところや、ツキナが喜ぶところとかほっこり。うらやましい。
ツキナが、イルが支払ったお金をもって(自分が稼いだお金)プレゼントするものを選ぶっていうのもかわいらしいよね。こういったちっちゃい気持ちの積み重ねっていいなぁ。
いいなぁって言葉しか出てこない…(笑)
救世主は救世主
魔物がでるようになったときいて、ツキナはこの世界は危険があるということを再確認する。実感はないけれど、そういうことがあったときに自分の身をまもる術がない。すぐに展開するような結界が必要だろうと考えて、結界玉を作るようになる。
自分のために結界玉をつくりはじめたけれど、イルにお守り代わりに持たせたのだからツキナはやっぱり救世主なんだよね。
でもここから、ガラッと展開がかわる。穏やかだった時間から急に緊張感ある話になる。
イルは魔物討伐に行くことになったが戻るのは2~3日後になるという。
これまで魔物が現れたことのない場所にも表れたという話や、これまで住んでいた世界と違って危険があること、そしてもしかすると明日会えないなんてこともあるかもしれない。そんなことを考えたツキナは咄嗟に結界魔法をガラス玉に込めてイルに渡す。
何事もなく戻ってこれればいい。
イルを見送るツキナをみてぼんやりと思った。
二人ともはっきり好きだって気が付いているのに、なんでこういうときに邪魔が入るんだろうね。魔物。
そして、心の底から我儘『救世主』をぶっ飛ばしたいくらいイライラのピークに達する。
えぇ。
第二王子のかっこいい所が見たいと、魔法も何も使えない我儘娘が、なぜか討伐隊にいるんですよ。
いや、お前帰れよ。
この流れは読める読める。読めるんだけれど、救世主のくせに何戦場で騎士の邪魔をしてんねん!魔物いるのに叫ぶな!『救世主』に対する嫌悪感マックス。
これでもかわいげのあるところがあれば別だけど、なんだろ。本当に救いようもないくらいバカで空気読めなくて、幼稚園児くらいの癇癪をそのまま大きくなってからも繰り返しているだけに救いようもない。
気持ちを伝えるのは怖い
ツキナは、イルのケガがあってから救世主のことを考えるように。そして、当たり前だと思っていることが、実は当たり前ではないこと、もしかしたら明日はなかったかもしれないと思うようにもなる。
『救世主』は救世主として城に滞在しているのに何もしないどころか、騎士団を壊滅状態に追い込んでしまった。救世主に対する不満は大きくなるばかり。
ツキナは救世主だけど、何もしていない。何もしていないから足を引っ張ることもしていない。救世主という役割をもっているのに何もしていない。見て見ぬふりをする自分。
もし自分が救世主であることを知ったらイルはどう思うだろうか。見て見ないふりをしていた自分を嫌いになるのではないだろうか。それとも救世主だから不快感をもっているのではないか。
たぶん、大好きなイルに救世主であることを隠していることがつらくなってきたのではないかなと思う。イルに話したいという気持ちがうまれたのかもしれない。そしてもともと感じていて罪悪感に加えて。もしかしたら何かできるかもしれないのにしようともしない自分。
自分の身を守りたいと思ってしたことなのに、だんだん苦しくなってくるというのがよくわかる。
イルとの約束
オーロラ祭りの日、イルもツキナも気持ちを伝えようって思っていた矢先に、『救世主』の暴走。
ツキナは救世主として結界をはりイルを守ることを決意する。それと同時に自分が救世主だということを知って嫌われてしまうかもしれないと感じる。守ることを決めたけれど、そのあとイルから言葉を聞くのは怖い。怖いから、言い逃げする。
わかる。わかる。わかる。
わかりすぎる。
怖いよね。救世主だと隠していたんだって詰られたら、耐えられないよね。だから逃げるよね。イルがそんなことをいう人ではなくても、最悪のこと考えちゃうよね。万が一のときを考えて保身にはしるよね。
続編は、スマホアプリマンガワンで連載開始。2週間に1回の更新なのでちょっともどかしいけれど。アプリは増やしたくないので、私もDLはあまりしたくなかったのですが、無料で読めるのでぜひ。閲覧期間は決まっていますがそれで充分。また本になると思うので。