異世界転生と魔法、さらには学園モノの王道ストーリー 神月サキの『転生伯爵令嬢は王子様から逃げ出したい』について紹介します!
- 王子様がヒロインに一目ぼれ
- ヒーローに追いかけられ外堀を埋められる
- シリーズを通して楽しめる
あらすじ
シェラハザード・リンテはフロレンティーノ神聖王国の伯爵令嬢。
シェラ転生した『私を取り巻く世界』は、同じ作者が書いたBL小説『君を取り巻く世界』のスピンオフとして書かれたTL小説であった。元々『キミセカ』が好きだったことから、『ワタセカ』を読んで知っていたが、小説の内容があまりに酷かったため、そんな世界に転生してしまったことで愕然とする。
それは、シェラの相手となる王太子レンブラントはバイセクシャルという設定があり、彼の親衛隊である騎士たちが愛人なのである。恋のライバルが男性ということもあるが、レンブラントとの結婚に嫉妬した愛人である騎士たちに輪姦され処女喪失するというストーリーがあるからだ。いくら心身ともに傷ついたヒロインに寄り添って結婚するとはいえ、そんな経験をしたくない。王太子に惚れられないように、イベントや条件を回避することにした。
目次
序章 思い出したらTL小説
第一章 始まりの夜会
第二章 月の輝く夜にはご注意を
第三章 図られた夜会
第四章 王立魔法学園
終章 女王はなんでも知っている(女王視点)
特典SS メリバはいらない(女王視点)
もこもこの所感
レンブラントの小説の設定にはドン引きしましたが、『狙った獲物は逃さない』と追いかけてくるレンブラントに心惹かれました。早くシェラに教えてあげたかった……。
月夜のシーンがお気に入りです。
感想(ネタバレ含)
転生魔法学園シリーズ2作目が「転生伯爵令嬢は王子様から逃げ出したい」。実はシリーズものとは知らずにこの2作目から読み始めました。だって、美貌の王太子が異世界転生した伯爵令嬢を捕まえる話でしょ?ゾクゾクするね!
私は、前情報なしで読むことをお勧めしたい。
異世界転生ものは王道中の王道。夜会やお茶会で突然前世の記憶がよみがえるという定番、乙女系ゲームの世界、などなど定番シーンがあると思いますが、本作も漏れず、定番中の定番、ド定番のこってこての展開。超絶悶える。
ヒロインのシェラハザード・リンテもそのとおり。王宮主催の夜会で前世の記憶を思い出す。前世のシェラが読んでいた「私を取り巻く世界」という小節の世界で、シェラはその小説のヒロイン、そして夜会で視線を交わした王太子がヒーロー。もしそれが普通の恋愛小説であったらなら問題ないどころか大喜びだったかもしれない。でも、この「私を取り巻く世界」の内容がヒロインにとっては酷い内容なのだ。
設定上、ヒーローのレンブラントはバイセクシャルで、彼の親衛隊の騎士は全員愛人なのだ。そして、ヒロインがヒーローと結婚することになって嫉妬した愛人たちにまわされてしまうというシーンがある。シェラが全力で拒否したい理由はそこにあった。
そりゃいやだ。ヒーローは愛人たちを処罰するけれど、もちろんヒロインは心を閉ざしてしまったまま。自分がこんな未来をたどるかもしれないと思うと怖くなるし、そりゃ全力で逃げるよね。
ここから、シェラとレンブラントの追いかけっこがはじまる。
全力で逃げる伯爵令嬢
“不幸な未来”を変えるためにはストーリーを変えるしかない。ならレンブラントと出会わなければいいと考えたシェラはレンブラントのキッカケになるフラグを折っていく。父親の先物取引をやめさせたり、夜会のドレスを最先端の流行を取り入れたり。
それでも結局、王太子と出会ってしまう。
これぞ、王道。この展開にキュンキュンしてしまう。そう。この嫌なのに、向こうからやってくる的な展開ってなんて胸がときめくんだろう!
夜会会場までエスコートされて、1曲踊って、バルコニーに連れていかれて。シェラ、なされるがまま。(全力で拒否していたけれど)王太子には逆らえないよね。
シェラがなすことすべてがレンブラントの興味を煽り、ついには名乗ることに。レンブラントはすっかりシェラのことを気に入っていて、黒猫のようだといいつつしっかり自分の伴侶の可能性も考えている。もうすでに伴侶はシェラだときまっているようなもの。もう道が見えているのに、ワクワクしてしまう。
王城につれてこられたらもう…
レンブラントの妹、アリシアの話し相手として王城に滞在することになるシェラ。もうこの時点で逃げられないって悟るよね。ね?でも、シェラはまだ逃げようと頑張っている。
TL小説のストーリー上ではアリシアは魔法学園で結婚相手を見つけることができず戻ってくることになっているが、”現実”ではルシウスと出会って結婚し他国へ嫁いでいる。女嫌いなはずのレンブラントに構われたりと、少しずつ”本来”のストーリーとは違う展開なのに、親衛隊にまわされてしまうエンディングを変えようと必死で奮闘する。
異世界転生ものだと、主人公がゲームや小説のストーリーに固執している展開はよくあるけれど、「転生伯爵令嬢は王子様から逃げ出したい」ではそれが自然に描かれているので、違和感なく受け止められた。とにかくシェラは未来を変えたいから「関わりたくない・必要以上に関わらない」を徹底しようとしていて空回り。自分のこと(レンブラントを回避すること)でいっぱいいっぱいで、周囲のことに目を向けたり情報を整理したりすることができていない。そこがシェラが素直でまっすぐなところなんだろうなと思う。
シェラは記憶が戻ってから、レンブラントやアリシア、ルシウスなどの登場人物のことは「私を取り巻く世界」の人物として接しているように感じる。知識の中の人物と対話しているというのか、だからいつまでたってもレンブラントのことを”女嫌い”だと思っているのだと思う。確かに、女嫌いではあるけど寄ってタカってくるような女性が嫌いなだけという感じに思う。本気の嫌いだったら、立場上跡継ぎは必要になるけれど、それだけのための相手を用意しなければと思うのだろうか。アリシアがいるのだから、アリシアの子どもを立てるのもよいし、国益が絡んでくるなら、はじめからアリシアに立場を譲ればいいのだと思う。そうもいってられないのが王族なんだろうけれど。
月が……綺麗ですね
「殿下、月が……綺麗ですね」
これを言わせたいために、この言葉のためにできたシーンが、一夜月なのかなと思ったんだけど、どうなんだろう。この夜の出来事がシェラとレンブラントの気持ちが形になった瞬間だったのかな?と思います。
ここ数年位、キャッチコピー関係の方々から「月が綺麗ですね」ブームが広がったのでご存じの方もいると思いますが、夏目漱石が「I love you」を「月が綺麗ですね」と翻訳したという話。よくもじっている作品もあるけれど、昔の文豪といいながら自分の気持ちが自然と表れてしまったというのがすごく伝わるシーンで、私の中で断トツ1位の名シーンです。
囲われていく伯爵令嬢
レンブラントに魔法を教えてもらうことになったシェラは、だんだん距離が縮まっていく。
そりゃそうだろう。ね。自分でもレンブラントに惹かれていること気が付いているのに、前世の記憶が邪魔して、レンブラントから逃げ切ろうと考えている。
そんなときに招待された夜会。レンブラントが婚約者を紹介するために開いたパーティ。腹黒!!シェラの気持ちの変化も感じているとはいえ、まだまだレンブラントに対する抵抗みたいなものがあるとわかっているのに、誰かにシェラを取られたくないからと周りを固めてシェラが断れない状況で言質をとったところがまた強引で負けを知らない男だなぁと思う。
シェラにしてみたら最悪だし、ショックだし、自分が親衛隊に襲われるかもしれないという恐怖でいっぱいなんだろうけれど、このすれ違いというか勘違いっぷりというか、その状況に思わず笑ってしまう。
きっとハッピーエンドになるんだろうなという安心感があるからかもしれないけれど、この後どうハッピーエンドにもっていくんだろうというワクワク。たまらない!!
逃げ切ったと思うよね
そこでシェラは魔法学園へ編入。なんという行動の良さ。周りを固めて追い詰めるくらいの男だから、すぐにシェラの居場所を見つけて連れ戻しに来るよね。て先が読める展開なのに面白い。
そして、学園での話がもっと知りたい!
もちろん期待を裏切らず、レンブラントが迎えに来るんだけど、それまでの間、同級生のテオとの関係性や、魔法対決など面白いシーンがちょこちょこ入る。これだけでも、1冊書籍にできそうだよね!!と学園もの好きな私はテンションが上がる。
正直なところ、私はもっとこの学園での話知りたかったし、シェラがちょっとうふふな展開も期待していた。だから、物足りない!!と個人的には思うのだけど、ストーリー全体としてはこのバランス感が良いのだとも思っている。
でも。。1作目のような、それよりも3作目に近いような、ちょっと学園生活みたいなところを深堀したかったなぁ(願望)
テオとフェルトに卒業後は外国に行きたいと話していたシェラ。その話を聞いたレンブラントが焦って連れ戻しにきたんだよね。かわいいよね。レンブラント。なのにどこまでいっても俺様で、上からで、強引で。
そこから喧嘩になるんだけど、やっとシェラは本音をレンブラントにぶつける。親衛隊はレンブラントの恋人で、自分がひどい目にあうんじゃないかという話。
目が点になるよね。レンブラント。
小説「私を取り巻く世界」では、幼少期にレンブラントは女官に襲われた経験から女性が嫌いになるが、現実ではレンブラントは母親(女王)に助けられたので事なきをえた。だから女性に対して嫌悪感はもったけど、そのような方向にははしらなかった。だから、シェラが知っていたストーリーとは違う状況だった。
シェラ、陥落。